2015/10/30
クルド文化協会で記者会見―トルコ大使館前の事件の発端と真実を明らかにするために
10月28日、10月25日のトルコ大使館前暴行事件に対してクルド文化協会が自らの事務所において記者会見を行ないました。この記者会見の目的は、トルコ大使館前のトルコ人とクルド人の「乱闘事件」について、メディアやネットで広がっているトルコの旗と「PKKの旗」をめぐるやりとりが衝突の原因という説に対して、事件の発端となった一方的な襲撃という事実を提示することで「喧嘩両成敗」的な態度や見方を改めてもらい、その襲撃の背景としてトルコの6月総選挙でのAKP(公正発展党=政権党)の敗北と11月1日出直し選挙、その在外投票(10月25日)のもつ意味を説明し、クルド人の基本的な立場を表明することでした。(発表された「声明」)

クルドを知る会では、この記者会見をサポートし、この記者会見を各メディアへの通知、クルド弁護団の大橋弁護士とのセット、クルドを知る会の声明発表(下段↓)、当日の記者会見準備の手伝いと立会いを行ないました。
この記者会見には、大手放送局と新聞・通信社のすべて、ロイターやフリーのジャーナリスト、研究者なども参加されました。
記者会見は、13時~14時30分くらいまででしたが、声明の日本語をアルファベットに打ち直してあるものを読み上げるために時間がかかりました。
質問では読売と産経が、旗で挑発したんじゃないか、としつこく質問していました。これに対して文化協会は、最初に襲われたクルド人が載っていた車内にYPBの旗をもっていたのは事実だが、ほんの小さな三角の旗(ペナント)で挑発的に掲げたわけでもなく、クルド人の旗でもない、メディアは旗を問題にしているが、襲ったトルコ人は「クルド人を殴るのに理由は要らない」と言っており、旗は口実と説明。
(YPB=人民防衛隊は、シリアのクルド人を主体にイスラム原理派から圧迫されている色々な民族、宗教グループ混成の武装組織。シリアのコバネーを襲ったISをYPGが唯一地上戦で撃破したことで一躍国際的に注目され、対ISの希望の星となっている)
この質問に関連して、大橋弁護士から、「仮に旗を掲げたとしても、ここは日本なので、それが罪に問われることはない。暴行を加えてよいことにはならない。これは傷害事件ですからね。そこのところ、皆さんちゃんと抑えてくださいね」と一言。
また事実確認として、襲われたクルド人が「クルドを知る会」の声明では5人となっているが、文化協会の声明では4人とあるがとの指摘に対して、当初襲われたのは5人、その内、負傷したのが4人と整理。負傷した4人の今後についての質問には大橋弁護士が、捜査に当たっている原宿署に立件を促す要望を午前中に出したこと、今後、この襲撃を暴行障害だけでなく、鉄パイプを用意しての襲撃であり被疑者不詳で殺人未遂まで視野に入れていることも説明された。
他には、灰色狼(民族主義者行動党MHPの青年組織)の日本での存在を質問した方がいました。質問の趣旨が分からないが、攻撃的なトルコ人たちのことと受け止め、これには「分からない」と前置きしながら、6月選挙の日本での政党別得票の内訳について、MHP→25、AKP→147、CHP(共和人民党:アタチュルク派)→76、HDP(人民民主党:クルド人が支持)→381 (トルコ大使館のHPから)と説明。
今回、在日本トルコ大使館に2か月前から選挙のための事前登録受付があり、6月時の登録者を含め10月25日現在で総登録者数は2931人、その内の1194人が今回投票した(トルコ大使館の発表)。クルド文化協会が把握した登録者は約600人としています。
記者会見から2日経ってメディア・ネットの報道や反応を見ると、記者会見の目的に沿ってそれぞれ一生懸命手を尽くし、説明を尽くしたように思えたが、流れは変えられていないように思えます。
「争うつもりはない」 乱闘事件でクルド人が記者会見【共同】
「平和的に解決したい」=在日クルド系団体が会見-トルコ大使館前乱闘【時事】
トルコ大使館前乱闘:在日クルド人「平和的に解決したい」【毎日新聞】
この他、このコピペ情報ばかりです。
はじめは、トルコ人とクルド人の乱闘―喧嘩両成敗報道から、記者会見の後の報道は、一方的な在日クルド人謝罪の流れになってきていて、本意が歪められたものになっています。
以下、クルドを知る会の声明を下に資料として載せておきます。
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2015.10.28
2015年10月25日のトルコ大使館前暴行事件に対する見解
クルドを知る会
代表 松澤秀延
事務局 さいたま市浦和区常盤3-18-20-803
TEL 048-834-1232 FAX 048-833-6861
10月25日、6月のトルコ議会選挙でエルドアン氏率いる与党AKPが過半数割れしたことによる出直し選挙の在外投票日に、トルコ人とクルド人による衝突騒ぎが起こったことは、各報道により世界に周知されています。けれども、内外のメディアのなかには、事件の発端について「クルドの旗を掲げていた」「トルコの旗を奪った」などという警察発表に終始し、一般的な民族問題、あるいは在日外国人問題として報道しているところも多いようです。
このため、重要なこの事件の真相が今、非常に見えにくくなっていることを、わたしたちは憂慮しています。
大切なのは「この日の朝6時台に、一体何が起こったのか」です。まず最初に、この時間帯に、自動車のなかで寝ていた3名と外でタバコを吸っていた2名、計5名のクルド人の若者が、複数の何者かにより激しい暴行を受けています。鉄パイプが使用されたとの情報もあり、この攻撃により負傷したクルド人は重症です。彼らはただそこで、投票の開始を待っていただけの若者です。
実行犯逮捕については警察の捜査に任せなければなりませんが、わたしたちが知らなければならないのは、誰が、何の目的でこのような事件を準備し、どのような方法で暴力を実行したのかについてです。この結果として、負傷者が出ていることのほかに、在日クルド人の投票行為そのものが妨害されたのです。この騒ぎのために投票せずに帰ってしまった人たち、騒乱の情報を知って投票所へ来るのをとりやめた人たちもいました。今回の選挙への、クルド人の投票を阻止することによって利するのは誰なのか、在日クルド人たちに汚名を着せたがっているのは誰なのか、このことについて、背景も含めて明確にしなければなりません。
これは、暴力を否定し、民主的で公正な選挙を支持するための行動であり、わたしたち日本人にとっても非常に大切なテーマです。
クルドを知る会は、2003年に在日クルド人1世たちが設立したクルディスタン&日本友好協会をサポートするために、同年結成された日本の市民による団体です。彼らとの12年にわたる付き合いのなかで、クルドの文化を知り、クルドの民族問題を学び、日本における入管難民問題を考え、そしてこの蕨・川口地域住民と在日クルド人との交流を深める取り組みを進めてまいりました。
わたしたちは、若いクルド人たちに加えられた理不尽な蛮行による彼らの心身の痛み、両親に手を引かれてこの場を訪れ、混乱を目の当たりにしてしまった子どもたちの恐怖、また友好的なトルコ人たちが感じた失望を共有しています。そして、同時に民主的な制度を身勝手な行為で叩き潰そうとする存在に対して、断固として異を唱えるものです。